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最高裁判所第一小法廷 昭和59年(行ツ)232号 判決

上告人

赤坂商事株式会社

右代表者

長谷田義元

被上告人

東京法務局長

米田昭

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由一の2について

本件訴訟記録によれば、原審の訴訟手続に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原審の裁量に属する審理上の措置を非難するものにすぎず、採用することができない。

その余の上告理由について

登記の申請が商業登記法(以下「法」という。)二四条各号の一に該当する場合には、登記官は決定をもつて当該申請を却下すべきことは同条の規定するところであるけれども、かかる申請もこれが受理されて登記が完了したのちにおいては、登記官は、法一一〇条一項により、法一〇九条一項各号に該当する事由が存する場合にのみ職権による抹消手続をとることができるのであるから、登記官の登記した処分に対し、法一一四条所定の審査請求により当該登記の抹消を求めることができるのは、右登記につき登記官による職権抹消事由が存することを理由とする場合に限られるものと解するのが相当である。けだし、法は、審査請求事件の処理に関し、登記官は審査請求を理由があると認めるときは相当の処分をしなければならないものと規定するところ(一一六条)、右規定にいう「相当の処分」とは登記官がその職権で処分しうる事項の範囲に限られるものと解するのが相当であり、登記の抹消事由を限定的に列挙した法の趣旨が登記名義人の利益あるいは当該登記事項を信頼して取引関係に入る第三者の利益の保護を考慮したものであることにかんがみれば、法一一八条に「相当の処分」というのも、特に右一一六条にいうそれと異なり監督法務局又は地方法務局の長に法が登記官に許していない処分までも命ずる権限を与えたものであるとは解せられないからである。そうして、登記申請が商法一九条の規定に反するものである場合には、登記することができない商号の登記を目的とするものとして法二四条一三号、二七条により登記官は当該申請を却下すべきものであるが、このような場合であつても、既に登記が完了したときには、右規定違背が法一〇九条一項二号所定の事由に該当しないことは明らかというべきであるから、かかる登記官の処分に対しては審査請求をすることは許されないものといわなければならない。

したがつて、以上と同趣旨に出た原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、右違法があることを前提とする所論違憲の主張はその前提を欠く。論旨は、ひつきよう、独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(矢口洪一 谷口正孝 和田誠一 角田禮次郎)

上告人の上告理由

一、原判決手続の法令違背について〈省略〉

二、商業登記法第一一四条の合憲法律の主張について

1 はじめに

(一) 被上告人は上告人の本件登記抹消の審査請求を法一一四条の解釈適用を誤り却下裁決したと上告人が本件裁決取消の訴提起したことは上述の次第である。

(二) 上告人の被上告人に対する本件審査請求は法一一四条により提起したがその提起根拠の法一一四条は憲法二九条に適合する合憲法律である。

(三) 右合憲主張の法一一四条の本件法は行政不服審査法であり、右行政不服審査法の特別法をなすものであるが行政不服審査法一条はその法目的趣旨を行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し国民に対して広く行政庁に対する不服申立のみちを開くことによつて簡易迅速な手段による国民の権利利益の救済を計るとともに行政の適正な運営を確保するにあると規定している。

(四) 右行政不服審査法第一条の目的趣旨はその特別法たる法一一四条に於ても変るところはない、ただ行政不服審査法と異なるところは法一一四条で審査庁を定めたり、法一一五条から法一一九条の特別規定あるに過ぎない、

(五) さすれば上告人が登記官の本件登記が上告人の商号専用権を侵害したとしてその登記抹消の是正を求めた審査請求に対しては審査庁たる被上告人は右行政不服審査法一条規定により国民の権利の公権力による故なき不当な侵害に対して何等かの有効適切な保護措置を該権利者に対し構ずべき国家の義務課されている事実明らかである。

(六) 然して本件審査請求に於て主張の上告人が害されたとする国民権利は屡述の通り商法一九条保障の上告人商号専用権である。

(七) 商号権には商号権の積極的機能としての商号使用権と消極的機能としての商号専用権がありその法律的性質はともに人格権と財産権との二面性を有するないし人格権的性質を有する無体財産権であると解される

(八) 上告人の本件商号専用権が無体財産権である以上、憲法二九条の財産権にあたり右商号専用権は憲法二九条により基本的人権として保障されており右保障の対象外となることはあり得ない、

(九) 憲法二九条は屡述の通り財産権を公権力による故なき不当の侵害から保障する趣旨にあるものであるから該憲法二九条違背の行政庁処分(登記官の本件処分も含まれている)は、行政不服審査法その他審査請求法規により国家の義務として課されたその救済手続を定めていると解するのが相当である、

(一〇) もし公権力による故なき不当な財産権侵害につきその被害者たる財産権者申立の審査請求事件につきこの財産権侵害存するにも拘らず右救済の手段方法の伴はざる審査請求法規ないし法条あるとせば該法令は憲法二九条違背の法令と言はざるを得ない、

(一一) 上告人はこの義に於て法一一四条の審査請求規定には登記官がその過誤によりないし不法に国民の無体財産権に当る商号専用権侵害したるときは右被害者の商号専用権者申立の審査請求事件にありては審査庁がその財産権侵害の法律事実認定せば登記官をして法一〇九条一項一一〇条以下の手続規定によりその救済措置構じ得るの登記官職務権限が当然に商業登記法に規定しありとし従つて法一一四条は登記官の憲法二九条違背の登記抹消請求に応ぜられるの審査請求規定でありとしこの限りに於て本件法律は(法一一四条)憲法二九条に適合する合憲法律であると上告人主張するのである。

(一二) 然るに原判決は登記官の本件処分に対して商法一九条違背の登記と雖も一旦登記された以上は該登記有効であり現行商業登記法上該登記抹消し得るの登記官職務権限がない、上告人の本件審査請求は登記官の登記法上存せざるの職権抹消行使求めるものであるから法一一四条違反の審査請求であるとし上告人請求棄却判決した、

(一三) 右原判決判示は商法一九条法二四条三号法一〇九条一項二号一一四条を違法に解釈し商法一九条法一〇九条一項一号二号一一〇条一一四条を違法に適用し結果に於て法一一四条を憲法二九条違背の違憲法律となした、

(一四) これら原判決判示の法令解釈はその法律解釈の方法論上その法律解釈を殊更国民の不利益に帰せしめるの違法の姿勢がある、これは立法政策の問題に非ず実定法成文法解の問題である、

(一五) この点本件事件の適用法律でなくその母法の旧法非訟事件手続法の抗告規定(現行審査請求規定の前身)を解釈した別紙東京控訴院明治四三年(ラ)第三六号明治四三年一二月六日決定の商号登記の侵害及び其救済を判示した判例は本件訴訟事件に法律解釈方法の示唆を与へ大いに参考となるものである

(一六) 以下原判決の前記挙示の法令解釈と適用の誤謬を正し法一一四条の憲法二九条適合の法律たる所以を明らかにする、

2 原判決判断の商法一九条解釈適用の誤謬について

(一) 上告人は原審に於て商法一九条は商業登記法二七条と異なり商法なる実体法の規定であつて手続法なる登記法の規定でないから私法商法の実体法効力を定め、単なる手続法の登記法効力にとどまらず国民の私法関係を律する私法効力があり、右商法一九条規定の同一商号の重複登記は先登記権利者の同意があつても法律上認められず許されるものでないことからこの義に於て、実体法のなかでも任意法規なるや強行法規なるやについては強行法規に属し実体法であつても当事者の意思によつて必しも右実体法規によらずともその実体効力発生するとのいはゆる任意法規に非ず従つて右商法一九条違背の登記には実体効力生ぜざることを主張した、

(二) 且又上告人は原審に於て商法一九条は手続法たる商業登記法上効力を目的としてこれを限定規定したものでないから単なる登記官にその義務を課した規定でなく国民の商業上私法関係を律するの私法上効力を目的として国民の商事上権利の発生、国民の商事上義務を課するの私法関係律するその商事私法関係の実体効力を定め仮令先登記権利者の同意があつても商法一九条に違背の登記はその効力認められるものでないことは前記の通りであるからその規定に強行法効力ありとし一般に実体法上の規定で強行法規効力あるものを単に効力規定と称する慣例から上告人は右商法一九条を強行法規でもあり効力規定でもあるとし商法一九条違背の登記に商号専用権の実体権不存在を主張した、

(三) 然し原判決は右上告人主張は独白の主張に過ぎず商法一九条違背の登記もその表示の実体権不存在と言へず該登記無効でなく有効の登記と判示上告人主張否認した、右原判決の商法一九条解釈は仮りにも国民の不利益に帰する解釈であり、上告人主張の商法一九条は国民に義務課した規定であるとの点に対し何等判断がない、

(四) 商号登記の権利者はその先登記により設定確立された商号専用権を権原として後にその同一商号を同一市町村同一営業のために登記した者に対しその後登記の同一商号即ち重複登記抹消請求し得られることは被上告人抗弁もこれを認めおりその点当事者間争いがない、

(五) ところで右抹消請求権原の商号専用権はその商号専用権侵害の登記を抹消登記請求するは、不法行為を原因としてその使用差止請求したり損害賠償請求したりするのとは異なり商法一九条違背の登記が当然に実体的に無効であり実体上不存在の登記即ち登記と実体上の間にそごあることが認められこれを請求原因として該登記無効抹消請求するのであり商号専用権侵害を不法行為としてこれが排除の抹消請求するのではない。

(六) 商法一九条の法律効果は既登記商号と全然同一のいはゆる同一商号に対してのみならずこれと紛はしいいはゆる類似商号に対しても及ぶこと(大審院決定大正五年一一月二九日民録二二―二三―二九)被上告人も(原判決書事実第二の五の2の(二))原判決も(原判決書理由の3一八行目一九行目)これを認むるものと解せられるがこの商法一九条解釈趣旨を前提すれば法二四条三号、一〇号法一〇九条一項一号二号規定は右類似商号に対しても類推準用あるの法律解釈成立するのである

(七) 然るに原判決は商法一九条を解釈してこれは単にその行為禁ずる(登記官に対してか、国民に対してか原判示趣旨明らかでない)のみで右商法一九条違反の商号ないし登記を実体上当然無効とする趣旨規定でないと判示し上告人の上記商法一九条解釈を排斥するがこの点原判決判断に商法一九条解釈の誤謬と同法同条適用の誤謬がある。

(八) また右原判決判断は上告人追て詳述する様に右商法一九条解釈の誤謬を原因として本件登記に前記(六)陳述の法二四条三号一〇号法一〇九条一項一号二号の類推準用あるの法解釈の上告人主張排斥したがこれらの点も原判決判断の法令違背である

3 原判決判断の商業登記法第二四条第三号解釈適用の誤謬について

(一) 法一〇九条一項は登記の抹消を申請し得るときとしてその一号に法二四条三号の事由をもあげ法一一〇条一項は右申請し得るときに登記官その登記職権抹消の権限あるを定めている

(二) 法二四条三号の事由は同条同号に「事件がその登記所においてすでに登記されているとき」と定められているが上告人はその重複登記規定はその登記の目的登記の事由の登記事項の重複の場合であり登記申請人が同一人であることを要件とするものでないとの法律解釈を主張した、右法二四条三号を同一申請人の場合に限定し却下事由とするときは右却下事由をもつてしては、商法一九条違反の商号登記排除の目的達成し得ざるの不当があり、右の通り縮小解釈しなければならないとする理由がないからである、

(三) 商法一九条の解釈については前記の通り登記法上の効力即ち重複登記の申請を却下すべき登記官の義務を定めたものに過ぎないとする説と私法上の効力即ち既登記商号と同一の商号を同一市町村同一営業のための登記をなさざるの国民の義務負担規定でありその重複登記排除を定めたものであるとする説との両説あるが右何れの説もいはゆる同一商号の登記を登記申請人が異るとも重複登記と解する点については変りがない

(四) 登記の実務たる事実たる慣習にありては、右のいはゆる同一商号の登記申請に対しては実体法商法一九条の手続法登記法に右法二四条三号が定められたものとして右法二四条三号を準拠法規として登記申請人の異同を問はず総ての右いはゆる同一商号登記申請却下しているのであり且又右のいはゆる類似商号の登記申請に対しては手続法登記法二七条に商法一九条に準ずる規定を設け同登記法に法二四条一三号が定められたものとして右法二四条一三号を準拠法規として登記申請人の異同を問はず総ての右いはゆる類似商号登記申請却下しているのであり右同一商号と類似商号両者区別して登記実務行はれている

(五) 原判決の右法二四条三号解釈は被上告人内部の事実たる慣習にも反するの法律解釈であつて右原判決の判断違法失当である、

(六) また原判決は本件登記が上告人商号と同一商号でないがこれと紛はしい、いはゆる類似商号に当るから前記主張の商法一九条の登記禁止趣旨が同一商号に限らずいはゆる類似商号にも及ぶの法律効果あるものとする右類似商号の本件登記に法二四条三号の類推準用あるの上告人主張独自の主張と判示したが右原判決の法二四条三号規定の解釈を同一人申請の場合に限られるとするの法解釈とともにあまりにも国民の不利益に帰するの縮少解釈し違法失当その法解釈適用の誤謬がある

(七) なお法二七条は商法一九条規定の同一商号登記の禁止規定とは全く別個にその類似商号登記を禁止した規定であるから登記申請人の異る同一商号登記申請却下は法二七条違反の登記又は仮登記を禁止した法二四条一三号規定により行ふものでないこと前述の通りである

(八) されば登記申請人の異る同一商号登記申請は法二四条三号により該申請却下するかまたは法二四条一〇号により却下するものであるので仮に右上告人主張の法二四条三号解釈不相当としても右法二四条一〇号法一〇九条一項二号解釈相当なのである以下これを述べる

4 原判決判断の商業登記法第一〇九条第一項第二号解釈適用の誤謬について

(一) 法一〇九条一項二号は登記抹消申請事由として訴をもつてのみその無効を主張することができる場合を除く「登記された事項につき無効の原因があること」を定め法一一〇条一項はこれを登記官の職権抹消事由ともしている右無効のときは法二四条一〇号をもつて申請却下事由とも定めている

(二) 上告人は原審に於て商法一九条解釈を前記の通り主張し右は手続法たる登記法上効力を定めたるにとどまらず実体法商法の私法効力を定め然もその既登記権利者の同意があつても右実体規定に反する同一商号の重複登記は許されずその登記効力認められないことから右商法一九条違背の商号登記は強行法規違背、効力規定違背の登記として右後登記の先登記重複の登記は実体上無効実体上不存在の登記としてその登記は訴へを待つまでもなく自明の無効原因あると主張した、

(三) そして本件登記は上告人商号と全くの同一商号ではないが商法一九条の効力はこれと紛はしいいはゆる類似商号にも及ぶものと解せられること前記の通りであることから類似商号として商法一九条の類推準用ありとしその無効実体上不存在であり登記と実体間そごの存在を主張した、

(四) 然るに原判決は商法一九条は登記法上の効力を定めたもので私法上の効力を定めたものでないとの被上告人主張採用したものか? その結果は右と同断の商法一九条違背の登記は実体上当然無効と言へず法一〇九条一項二号の無効原因存しないと判示した、

(五) 商法一九条解釈については上告人屡述の通り登記法上効力即ち重複登記申請を却下すべき登記官の義務を定めたにすぎないとする説(竹田省商法総論三四一頁同商法総則一二九頁以下大隅健一郎商法総則一九四頁大森忠夫商法総則商行為法九四頁、同新版商法総則講義一二八頁石井照久商法総則一一六頁)とこの効力のほか私法上の効力即ち既登記商号使用者の重複登記排除請求権をも定めたものとする説(松本烝治商法総論二五二頁西原寛日本商法論三九一頁同商法総則商行為法五〇五頁田中誠二新版商法総論一八一頁三全新版二一三頁鈴木香雄商号権の侵害四四頁野津務商法総則第二部二四一頁古瀬村邦夫経法全集七巻三四八頁東京地判昭和二六、一、一七下民集二巻四七頁)との両説あるが上告人は後者説を多数説としてその立場に立ち商法一九条が右私法効力を定むる強行法規効力規定で国民に権利の付与と義務課しているから右商法一九条違背の本件登記にはその登記の実体効力存しないと主張する

(六) 原判決は右少数説の立場に立つものの如く商法一九条による先登記者に対しその商号専用権の実体権確立を認めざるは法律解釈方法論の姿勢として法律を国民の利益に帰するの解釈をなさずその点違法失当と言ふべく国民の利益に帰する解釈せば本件登記商法一九条違背の登記であること商法一九条違背なるが故にその登記表示の実体権認められないのである、

(七) 猶原判決は同判決の理由二の3のけだし書(一審判決書一一枚目裏六行目から一二枚目表七行目まで)の判示をなすも同判示は同判決の事実の四の3の(三)の上告人主張(一審判決書六行目裏三行目から七枚目裏二行目まで)を正解せざるの判示であり商法一九条と法二七条とは前者は実体法規定であり後者は手続法規定であり全くその立法の次元を異にしその効力を異にする規定であり法二四条一三号は右法二七条違反の登記申請を却下事由と定むるも法二四条一三号規定の却下事由の内に商法一九条規定の既登記商号と全く同一のいはゆる同一商号の同一市町村同一営業の登記申請を含めその却下の根拠規定として立法したものでないこと、前述の通りであるもしこれをも含めてその却下事由定めたものとすれば法二四条規定は列挙限定主義をとつている以上同条一三号は「商法一九条の規定によりならびに第二十七条の規定により登記することができない商号の登記又は仮登記を目的とするとき」と規定したはずである

(八) けだし実定法は総てその成文に表象される事項に限つてその事項成文化実定するものであつて、その成文に表示されず、ただ判例により類推準用の解釈事項までこれを想定して成文化実定するものでないからである

(九) 商業登記法の制定当初は商法一九条違背の同一商号(類似商号を除く)の登記申請は法二四条三号又は一〇号の却下事由に該当するものとして立法したものであつて右同一商号の登記申請が法二四条一三号に含まれるの却下事由としてこれを立法したものではない、その証拠としては法二七条は類似商号の登記申請は商法一九条に抵触するや否や明確を欠くので、これを法二七条で登記官の義務として該登記排除を計つたことで明らかである、

(一〇) 従つて法二七条違背の登記は登記官の訓示規定違背として当然無効となることはないが、右法と次元を異にする実体法商法一九条が右類似商号にその法律効果の及ぶ次元にありてその登記効力考へるとき右類推準用の強行法規効力規定違背の登記として該登記の効力発生認め得られないのである、類似商号についてはこの様に法二七条と商法一九条とがそれぞれ適用する法律異なるによつて、その法律効果異にするの二重性格あるのである、そして法一九条と別に法二七条規定を立法したからとて商法一九条規定の類似商号に及ぼすその類推準用の実体法上法律効果を何等損ふの法理はなくこれを失ふものではない

(一一) よつて商法一九条違反の同一商号も商法一九条違反類推準用のある類似商号も

イ、商法一九条が強行法規効力規定であることから強行法規効力規定違背の登記は実体上当然無効であるの法理により右登記の商号は実体上不存在と言はざるべからず登記上と実体上との間にそごがありその無効原因があること

ロ、上告人は立法一九条違反の登記は職権抹消の対象となり法二七条違反の登記は法二七条に違反するという事由のみでは職権抹消の対象とならないことを主張しているのであるから法一〇九条一項一号に法二四条一三号に掲げる事由を付け加へるの必要はなく

ハ、法二四条の登記申請却下事由規定はその登記すべき事項が実体法違反の無効又は取消原因に当るときこれを一〇号に規定しまたその登記すべき事項が手続法の法二七条の登記官義務違背に当るときこれを一三号に規定しそれぞれ別個に規定を設ける必要があつたこと

ニ、同一商号登記禁止規定が手続法の登記法でなく実体法の商法で規定せられていること、右禁止の登記が当事者の既登記者同意があつても許されないことから商法一九条は任意法規でなく強行法規であり且効力規定であること

明らかである

(一二) かくて本件登記が法二四条一〇号又は一〇九条一項二号に該当するものとして登記官はこれを法一一〇条の職権抹消の対象となし抹消し得られるのでありこれに反し抹消の職権なしとして棄却した原判決判断には右法一〇九条一項二号解釈とその適用の誤謬の存在明白顕著に認められるのである、

5 むすび

(一) この様に登記官が商法一九条により設定せられた既登記権者の商号専用権に対し故意過失により右商号専用権侵害の登記なしたる場合その商号専用権侵害を被れる利害関係人から法一一四条により該登記抹消請求の審査請求受けたとき、審査庁はこれを登記官に法一一〇条以下に定むる手続により該登記抹消の命令し得られるのである

(二) されば法一一四条は登記官が自らの過誤による既登記権者の人格的性質を伴ふ無体財産権に当る右商号専用権侵害の不法行為につき職権をもつてこれを是正する手続のある救済規定であるから右法一一四条は憲法二九条の財産権保障に適合の合憲法律である

(三) 然るに原判決は商法一九条法二四条三号一〇号法一〇九条一項一号二号解釈の誤謬を原因として右法一一四条審査請求には右無体財産権の商号専用権侵害救済の登記官職務権限存しないと判示(救済の職務義務存否判示はない)し上告人の本件審査請求利益を欠き、審査請求の対象たりえない処分に対する審査請求求めるもので不適法条却下裁決相当とした、これはその結果に於て原判決法一一四条の法律を登記官の不法行為に対する登記官自らによる是正の職務義務課せざるものとしこのことが憲法二九条に違背するの違憲法律たらしめるものである、

(四) 上告人はここに憲法八一条にもとづき貴裁判所に対し本件法律法一一四条の憲法二九条適否調査を促しその判断求むる次第である、

三、商業登記法第一一四条の違憲法律の予備的主張について〈省略〉

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